(シリーズ:花が教えてくれた、生きる力 ― 季節が巡るように、人生も動いている ― 第1章)
季節が教えてくれる、生きること
このブログは、三部作エッセイ『花が教えてくれた、生きる力 ― 季節が巡るように、人生も動いている ―』の第1章です。
私は、人生の大きな立ち止まりを経て、花を「愛でる」のではなく、「教えを乞う」存在として見るようになりました。本シリーズでは、人生の難所に直面したとき、あるいは心が深く沈んだときに、私に静かな気づきを与えてくれた三つの花との出会いを綴ります。
花たちは、人の営みとは無関係に、ただひたむきにその役割を果たします。その姿を通じて、私たちは「生きるとは何か」「今をどう受け取るか」という、最も根源的な問いへの答えを受け取ることができるのです。
第1章の今回、私が語りたいのは、実家の庭に今年も真紅の姿を見せた彼岸花が教えてくれた、「忘れずに咲く力」についてです。
忘れずに咲く花
実家の庭に、今年も彼岸花が咲きました。
まっすぐに伸びた濃い緑の茎の先に、炎のような赤がほころび、ときに水花火のように広がるその姿は、美しくも、どこか儚く見えます。
以前の私は、花の美しさを感じるよりも、仕事での具体的な成果や、目に見える結果のほうにこそ価値を見出すタイプでした。心の中に、花をめでる静かな余白などなかったのです。
けれども、病気やコロナ禍といった、誰もが立ち止まらざるを得ない時期を経験してから、「花が咲いているだけで嬉しい」と、心から思えるようになりました。その喜びは、理屈ではなく、生命そのものへの安堵に似ています。
なぜ、この花は、毎年かならずこの時期に咲くのだろうか。
桜のように早い年も遅い年もある花が多い中で、彼岸花だけは、まるでカレンダーを持っているかのように、いつも「お彼岸」に合わせて咲く。その正確さは、不思議で、どこか神秘的です。
静かに、しかし確かに季節を告げるその姿に、私たちの日常の喧騒にはない、自然の時間の正確さを感じます。
季節が刻むリズム
季節の移ろいは、風の温度や空の色だけでなく、地面からすっと立ち上がる花たちが教えてくれるものでもあります。
彼岸花は、まるで見えない時計のように「時」を刻み、「命の暦」を知らせてくれる存在。夏の終わりを告げるように、ある日突然、地面から姿を現し、一気に真紅の花を咲かせます。
私たちがどんなに焦りや迷いの中にいても、花たちは淡々と次の季節を準備し、その役目を果たしている。その揺るぎない姿に出会うたびに思うのです。
「ああ、今年もちゃんと季節が巡ってきたんだ」と。
その安堵は、「私たちは今も、確かに生きている」という揺るぎない確信に似ています。
季節が繰り返されるように、私たちの一日一日も、ゆっくりと、確実に流れている。その大きな流れに静かに身をゆだねると、心の中に、未来への静かな信頼が戻ってくるのです。
花が教えてくれたこと
立ち止まったあの時間が、私に「生きること」を根本から見つめ直すきっかけをくれました。
健康であること、家族がいること、そして、明日を迎えられること。それは、かつて私が当たり前だと思っていたものとは違い、一つひとつが奇跡のようにありがたいことなのだと。
彼岸花を見て、あらためて思いました。
花は、誰に見られなくても咲く。
評価されるためでも、誰かの期待に応えるためでもなく、自分の中にある「咲く」という力に従って生きている。
私たちも同じように、他人の期待という「外側の基準」ではなく、自分のリズムという「内側の声」で生きていい。それぞれの場所で、それぞれの季節を生きることが、それだけで十分美しいのだと、彼岸花は教えてくれます。
「誰かのためではなく、自分のために咲く」。
それは、自己中心的な生き方ではなく、生命そのものを、誠実に生きるということ。この静かな気づきが、私の中に長く留まり続けています。
めぐりの中で
華やかさよりも、芯のある凛とした強さ。
どんな年も、どんな気候でも、その時を忘れずに咲く。
その律儀さは、私たちの不安や揺らぎを、やさしく受け止め、こう語りかけてくれるみたいです。
「季節は、今日も静かに歩みを進めている。
あなたの時間も、その歩みの中で、確かに息づいている。」
自然のリズムに身をあずけるだけで、心の奥が少しずつ静まっていきます。
そしてふと、思い出します。
庭の真紅が去る頃、次に季節を知らせてくれるのは、あの甘くて懐かしい香り。
そういえば、そろそろ金木犀も香り始める頃ですね。
(第2章「金木犀に救われた朝」へつづく)
季節の中で、生きることをもう一度見つめ直す。この三部作は、季節とともに歩いた、心のめぐりの記録です。
私の小さな気づきに最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。この静かな語りが、あなたの心のどこかに残ってくれたら嬉しいです。
【講演のご依頼について】
「季節が教えてくれる、生きること」というテーマでお話しする機会を大切にしています。今回ご紹介した彼岸花のエピソードだけでなく、金木犀や一輪の花のお話を聞きたいというリクエストも歓迎いたします。もし、このメッセージを直接、皆さんの場所へお届けするご縁がありましたら、こちらよりお気軽にお問い合わせください。
▶お問い合わせはこちらです。
*三日経っても返事がない場合はお電話ください。050-5865-6969(平日 9:00〜17:00)
