腎機能が悪化した私は、一時的に透析を受けることになりました。意識が朦朧としていたので、詳しい記憶はあまり残っていませんが、それだけ命にかかわる状態だったということです。
※このブログは後編です。入院に至った経緯や、ICUでの葛藤については、こちらをご覧ください。▶【前編】「クローン病の合併症でICUへ:それでも“幸せを向けるか”を問い続けた日々」
原因は、市販の痛み止め。安易に飲んでしまった薬が、胃腸を爛れさせ、腎臓にまで深刻なダメージを与えていたのでした。
その後、嘔吐は治まったものの、ひどい下痢が止まらない日々が続きました。体力は奪われ、意識もぼんやりとしたまま。そんなときに、消化器内科と腎臓内科の意見が分かれました。
下痢を止めるべきかどうか。
消化器内科の医師は、「クローン病には下痢止めは使わない方がいい」と言います。一方で腎臓内科の医師は、「このままでは体力が持たない」と言います。私は混乱しながらも、思わずこう口にしました。
「クローン病のことは、ひとまず横に置いてください。」
それを言わなければ、治療は前に進まない。その切実な思いが伝わったのか、その後、下痢止めが処方され、状態は少しずつ改善に向かいました。
さらに、腎機能が悪いと造影剤が使えないとか、検査も制限されることが多いことを後になって知りました。「治療の選択肢が限られていく」という現実。命を守るために必要なことが、別の病気によってブロックされる。そのたびに、胸の中に言葉にならない不安が生まれていました。
数日間ICUに入ったのち、救急病棟を経て、ようやく一般病棟へと移りました。体調は少しずつ回復し、退院の見通しも立ってきました。しかし、ここからがまた苦悩の始まりでした。
これからの生活について、医師たちから「食事の注意点」を受けるのですが、それぞれの科によってアドバイスの内容が異なるのです。
元はといえば、結石が原因でした。
結石の再発防止には、水分をしっかり摂ることが必要だと言われます。ところが腎臓内科の医師は「そんなに飲まなくていい」と言うのです。
さらに、食べ物についても悩まされました。結石の観点からは「シュウ酸を控えて」と言われ、腎臓からは「塩分を控えて」と言われる。血液が酸性に傾いているため「アルカリ性にする食品を」とも言われる。それぞれをネットで調べてみると、それらはクローン病には向いていないものばかり。
「いったい何を食べればいいの?」
退院後、私は病院で出されていた食事を思い出しながら、体に良さそうなものを選んで自炊を始めました。でも、体重はどんどん減っていきます。
食欲もなく、何を食べても力が出ない。そのうち、起きているだけでふらつき、椅子に座っていられなくなりました。
「幸せを向く」ことができない。
自分がこれまで本に書いてきたこと、講演で伝えてきたことが、今の自分にはできていないことに気づくと、情けなくなりました。
「自分で選ぶことが大事です」
「自分で人生を動かせます」
そう言ってきた私が、医師たちの言葉に振り回され、何も決められずにいたのです。
自分で決断できない。出口が見えない状況に気づいた私は、自分の心に問いかけました。
「今、いちばん困っていることは何?」
その答えは、意外とシンプルでした。
医師の言葉でも、難しい病名でもなく、現実に起きている「体重減少」と「止まらない下痢」でした。
だったら、まずやることは
「体重を増やすこと」。
それが私の“生きる”ための第一歩でした。
細かい制限は気にしない。
今の私に必要なのは、「食べること」だけ。食事のバランスや内容は、あとでいくらでも整えられる。とにかく今は、体力を取り戻すために、なんでも食べようと決めました。
果物は食べやすかったので、缶詰やジュースなど、糖分が多いかなと思いながらも、口にできるものをどんどん取り入れました。高カロリーで栄養価のある食品も積極的に食べました。最初は一度に食べられる量が少なかったので、ちょこちょこ小分けにして食べました。
そして「睡眠」。
1日9時間を目安に、とにかく寝るようにしました。夜中に目が覚めても、しばらくしたらまた眠れる。
目覚めたときの疲労感も、少しずつ軽くなっていきました。
起きている時間が長くなってくると、外に出て歩く練習も始めました。すると、ある日、体重の減少が止まり、下痢もぴたりと止まったのです。
その翌日は、自分で立って動けるようになり、さらに翌日にはレッスンを再開することができました。
まだ本調子ではありませんが、朝から普通に仕事をこなせるようになりました。
そして今日、体重は1キロ増えていました。
「やっと、ここまで戻ってきた」
そんな気持ちで、今このブログを書いています。
次回は、この療養中に私が試していた「不安を撃退する小さな習慣」について書いてみようと思います。
さくらいりょうこ著『幸せを向いて生きる』や講演会のブログはこちら。ご購入はAmazonで。

