「好き」が「苦しみ」に変わったとき
もしかしたら、あなたもこんな経験があるかもしれません。
最初は「好き」で始めたことなのに、
気づけば評価を気にするようになり、
楽しかったはずのことが、重たく感じられてくる――そんなとき、目標が「欲」にすり替わってしまっているのかもしれません。
ただ好きだった、あの頃の私
私がフルートに出会ったのは、まだ中学生でした。音楽大学に進んだのも、笛を吹くことが好きで、両親から学ぶ機会をもらえたからでした。
練習はあまり好きではありませんでしたが、ひとつずつ音を覚え、少しずつ上手くなっていくことが嬉しくてたまりませんでした。
自分にとって、フルートは“救い”のような存在だったと思います。
それまで「自分にできることなんてあるのかな」と思っていた私が、「これならがんばれる」「もっと上手くなりたい」と自然に思えたのですから。
当時の私にとって、音楽大学へ入ることも、フルートの上達も「目標」でした。有名になりたいとか、そんな気持ちはなく、吹ける喜びを満喫し、音楽で生きていけたらいいなと思っていました。
でも、あるときから変わり始めました。
「世界一のフルート奏者になりたい」
そう思うようになってから、それまでとは違うがんばり方を始めたように思えます。
もちろん、大きな夢を持つことは悪いことではありません。夢があるから努力できるし、限界を超えようとする力も生まれます。でもそのときの私は、「目標」ではなく「欲」に取り憑かれていたのかもしれません。
他人と比べられる世界。
音楽の世界にはコンクールがあり、オーディションがあり、評価される場がたくさんあります。でも本来、音楽は誰かと比べて優劣をつけるものではないはずです。
それなのに、「どうすれば認められるか」 そんなことばかり考えるようになっていった自分がいました。
フルートを楽しむ気持ちは消え、私の心には野心(欲)でいっぱいになっていました。思い返すと、あの頃の私の「夢」は、いつの間にか「執着」に変わっていたのかもしれません。
「目標」とは、自分を幸せに導くもの。
その道のりさえ愛せるもの。
だけど“欲”は、結果だけを求めてしまう。
どんなに頑張っても、満たされないまま、心はどんどん渇いていきます。
今になってようやく、あの頃の自分を客観的に見つめられるようになりました。
そして思うのです。
あのとき、もう少し自分の心の声に耳を傾けていたら、もう少し、音楽の喜びを手放さずにいられたのかもしれない――と。
でも、あの経験があったからこそ、今の私があります。「欲」に飲み込まれた時期も、人生の大切な一部です。
これから、私の人生の中で「目標」と「欲」がどう関わり、 どんなふうに私を動かしてきたのか、少しずつ振り返って書いていきたいと思います。
今読んでくれているあなたへ。
もし今、がんばっているのに苦しいのだとしたら、それは「欲」が、あなたの目標をすり替えてしまっているサインかもしれません。
努力しているのに、心が満たされない。
結果を出しても、まだ足りないと感じてしまう。
そんなときは、こう自分に問いかけてみてください。
「私は今、人の評価で生きていないだろうか?」
誰かに褒められるために。
誰かに認められるために。
誰かよりも上に行くために――
気づかぬうちに、人のまなざしが、自分の「軸」を奪っていくことがあります。
でも本来、目標とは「自分を幸せにするための道しるべ」。 その道の途中には、迷いも遠回りもあるけれど、自分を大切にしながら歩いていけるものです。
だからこそ、今立ち止まって考えてみてください。
その目標は、誰のものですか?
あなたの心から生まれたものですか?
もし違うなら、変えてもいいんです。
やめたっていい。
軌道修正だって、立派な「選択」です。
あなたの人生は、あなたのもの。
評価されるためじゃなく、幸せになるためにあるのです。
どうか、もう一度、『本当の目標』に耳を澄ませてみてください。その先にきっと、あなた自身の音が待っています。
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