訪問看護師さんに伝えたい「あなたが幸せであるために」

先日、兵庫県訪問看護連絡協議会の皆さまにお話しする機会をいただきました。

患者の家族としての立場から、訪問看護の大きな力を感じた体験と、皆さんへの感謝の気持ちをお伝えする時間でした。

今日はそのときお話ししたエピソードを、ここで少しシェアさせてください。


「訪問看護師さんは、家族にとってどんな存在か」
そして、「あなたが幸せであることの大切さ」について書いていきます。


母と訪問看護師さんの出会い

私の母は、70代半ばで脳梗塞を患いました。
幸い命は助かりましたが、それを境に、心の調子が大きく崩れてしまったのです。

「心臓が止まりそう…」
「息ができない…」

そう言うたび、私が駆けつけるのを待ちきれず、
母は自分で救急車を呼んでいました。

けれど、検査結果はいつも 「異常なし」
それが何度も、何度も繰り返されたのです。

医師からは「妄想でしょう」と告げられました。
おそらく極度の不安から来ていたのでしょう。

頭ではわかっていても、どうすることもできず――
母も私も、次第に心身ともに疲弊していきました。

やがて、母の心を休めるために精神科を受診。
そして、2か月間の入院が決まりました。

しかし、ホッとする間もなく、頼りにしていた姉が脳内出血で倒れてしまい、
母のことはすべて私の肩にのしかかることに…。

入院中、医師や看護師さんと何度も相談を重ねた結果、
母が退院した後は、介護のサポートを受けながら暮らすしかない、
そう覚悟するようになっていったのです。

「家に他人を入れたくない」母の言葉

私から母に話すより、
先生から伝えてもらった方がいいかもしれない…。

そう思い、介護のサポートについて先生から話していただきましたが、
やはり母の口から出てきたのはこの言葉でした。

「家に他人が入ってくるのはイヤ」

ああ、やっぱり。
母の性格を知っている私には、予想できた言葉でした。


けれど、このままでは私ひとりで母を支えることはできません。
なぜなら、私は介護の経験もないし、
自分の仕事も生活もあったからです。

いろいろなケースを考えてみても…
出てくるのはたったひとつの結論。

「私、ひとりじゃ無理…」

当時の私は、介護サービスの仕組みも何も知らず、
何をどうしたらいいのか、さっぱりわからない状態でした。

それでも、何とかしなければ。


そんなとき、紹介されたのが
訪問看護ステーション でした。

母の介護認定のことさえわかっていなかった私に、
ケアマネージャーさんは、
とてもやさしく、そして簡単に説明してくださいました。

その存在は、私にとって――
いえ、家族にとって
最初の“希望の光”でした。

ケアマネージャーさんは、
みるみる母の状況を整えてくださいました。

私が「お風呂はどうしよう…」と心配していたときも、
「お風呂に入れてくれるデイサービスがありますよ」
と教えてくださり、週に2回通うことが決まったのです。

訪問看護師さんの言葉に救われて

心の病もあったので、
ケアマネージャーさんは訪問看護も考えてくださっていました。

「週に一度、
お母さまの様子を見にうかがいましょう。」

その言葉に、私はホッとしました。

ありがたい…。

二日間のデイサービスに加えて、訪問看護。
これで週に三日は母のもとに誰かが来てくれる。

そして私が週に1~2回実家へ行ければ、
母もなんとか頑張れるかもしれない――。

姉もリハビリ施設に通い始め、
目を見張るほどの回復ぶりを見せてくれていました。

「きっと大丈夫。」
そう思えるようになったのです。

訪問看護は、
母の体調を見守りながら、熱を測ったり、薬の準備をしたり、
本人の望むことを手厚くしてくださるものでした。


実は母の妄想は、脳梗塞がきっかけではありませんでした。
私が小さい頃から続いていたのです。

診断は、「妄想性障害」というパーソナリティ障害。

被害妄想のもっと強いバージョンで、
「誰かに嫌がらせを受けている」という訴えにとどまらず、

家のあちこちで音がする。
人工衛星が見張ってる…
そんな話が何時間も続くのです。

いちばん長かったのは、
「嫌がらせを受けている」という話でした。

けれど、それが本当のことなのか、
私にもわかりませんでした。


訪問看護師さんが来てくださると、
母はひたすら、その妄想を語り続けました。

それでも――
訪問看護師さんは、母の話を決して遮らず、
何時間も耳を傾けてくださったのです。

私はその様子を見ながら、心の中でこう思っていました。

「こんな調子で、訪問看護師さんは大丈夫なのかな…
母の相手をして、疲れ果ててしまわないだろうか。」


ある日、思い切って訪問看護師さんに聞いてみました。

「母がずっとこんな調子で、すみません…」

するとその方は、少しも迷わず笑顔でこう言ってくださいました。

「大丈夫ですよ。私たちはプロですから。」

その一言が、どれほど私の心を軽くしたか…。
ずっと背負っていた重たい荷物を、
そっと降ろしてもらったような気持ちでした。

母の変化と「ありがとう」

そんな日々が何か月も続いたある日、
母はふと、話を止めました。

少し遠くを見つめながら、
静かに、こうつぶやいたのです。

「…私、同じことばっかり話してたわね。」

母が、自分の妄想に気づいた瞬間でした。
それは、私にとっても忘れられない感動の瞬間でした。

そこから、少しずつ、母は変わり始めたのです。

どのように変わったかというと――
母は「これからの自分の未来」を考えるようになりました。


とはいえ、長い間人づきあいを避けてきた母にとって、
どうやって人と関わればいいのか分からない様子でした。
迷いながらも、一歩踏み出したい…そんな表情をしていたのを、今も覚えています。

そこで私は母にこう伝えました。

「ありがとうをたくさん言ってみたら?」

ちょうどその頃、私自身も
「ありがとう5万回の奇跡」を実践しているときでした。

母にも、人と繋がるこの大切な言葉を試してほしい、
そんな思いで提案したのです。


最初はぎこちなかった母も、
少しずつ「ありがとう」と口にできるようになりました。

そして気づきました。

「ありがとう」って本当にすごい言葉だな…

母と周りの人との距離が、
少しずつ、でも確実に縮まっていくのが分かったのです。

訪問看護師さんたちのおかげで、
母は人と繋がることの喜びを思い出しました。

「人は、ひとりじゃ生きられない」
そんな当たり前のことを、母も私も、改めて感じた時間でした。

訪問看護師さんへのメッセージ

訪問看護師の皆さんへ。あなたの笑顔や優しさは、
患者さん、そしてそのご家族にとって
想像以上に大きな支えになっています。

母は今、89歳になりました。

「お風呂に入るだけのデイサービスは物足りないの」

そう言って、今ではリハビリ専門のデイサービスに通うようになりました。
訪問看護師さんや介護スタッフの皆さんに支えられながら、

「できるだけ自分の足で歩きたい」

そう言って、毎日を懸命に過ごしています。

今の母は、とても幸せそうです。
そして何より、「誰かに感謝できる人」になりました。

この変化は、決してひとりではできなかったことです。
訪問看護ステーションの皆さんのお力があったからこそです。

本当にありがとうございます。

あなたが幸せであるために

患者さんを支える仕事は、本当に尊いものです。

けれど――
誰かを支えるためには、
まず、あなた自身が幸せでいることがとても大切です。

忙しい毎日の中で、ふと立ち止まって、
自分に問いかけてみてください。

「私の幸せって、何だろう?」

この問いかけをすると、
きっと多くの方がこう答えるのではないでしょうか。

「患者さんたちの幸せが、私の幸せです。」

それも、とても素晴らしいことです。
けれど、どうか思い出してください。

あなた自身のこと。
そして、大切なご家族のこと。

そこにもきっと、幸せがあるはずです。


長い人生の大半を、
「誰かのため」に生きてきた皆さんへ。

これからはぜひ、
小さな選択から“楽しい”を選んでいってほしいのです。

たとえば…

「珈琲と紅茶、どちらがいい?」
と聞かれたとき。

「どっちでもいい」
と答えていませんか?

「晩ごはん、何が食べたい?」
と聞かれたときも、

「なんでもいい」
と答えていませんか?

私の母に「何を食べたい?」と聞くと、
毎回こう答えます。

「お寿司」

毎週でも、毎日でも(笑)。

するとどうなると思いますか?
母の前には、ちゃんとお寿司が登場するのです。

こんなふうに、日々の食事だったり、
お休みの日の時間の使い方だったり…。

もっともっと、「楽しい」を増やして生きてほしい。


私のオカリナの生徒さんに、
こんな方がいらっしゃいます。

元・看護師さんで、訪問看護ステーションにお勤めだった方です。
退職後は、オカリナ三昧の日々。

各地のオカリナフェスティバルに申し込み、出演し、
ご当地の美味しいものを食べて、
時には宿泊して…旅と趣味を満喫されています。

もちろん、今はお仕事を辞められているからこそできることかもしれません。
でも、その方はお仕事をされている頃から、
オカリナを習い、楽しんでおられました。


こんなふうに、ご自身の好きなことをひとつ。
そこから幸せの枝葉を伸ばしていってほしいと、心から願います。

そして――
いつまでもお元気で、私たちを救う存在でいてください。

感謝を込めて

心から、ありがとうございます。

母が訪問看護師さんのおかげで変わることができたように、
きっと今この瞬間も、どこかで誰かの心が
あなたの存在に救われているのだと思います。

どうか、これからも
あなた自身の幸せを大切にしながら、
多くの人の希望であり続けてください。


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メディア掲載実績

これまでにたくさんの新聞・ラジオ・雑誌等、多数のメディアで取り上げていただきました。
・朝日新聞「ひと」欄掲載
・月刊『致知』の致知随想
・NHKラジオ深夜便 など

2025年5月22日朝日新聞「ひと」欄(全国版)

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