「人生会議(ACP)」という言葉を、聞いたことがありますか。

国が行ったアンケート結果を見てみると、およそ7割の人が「人生会議という言葉を知らない」と答えています。この数字だけを見ると、人生会議はまだ私たちの日常には馴染んでいない、少し特別な世界の話のように感じられるかもしれません。

でも、面白いのはその“先”です。

「知らない」けれど「考えたことはある」という現実

同じアンケートで「もしもの時の医療や生き方について、考えたことはありますか?」と聞くと、今度は多くの人が「ある」と答えています。

言葉は知らない。
制度もよく分からない。

けれど、

・自分が体調を崩したらどうなるんだろう
・家族に迷惑をかけないだろうか
・できるなら、こんなふうに過ごしたいな

そんなことを考えたことがある人は、決して少なくありません。

ここには、大きなギャップがあります。

私たちは本当は、心のどこかで「どう生きたいか」「どんな時間を大切にしたいか」を、ずっと考えているのだと思います。

けれど同時に、
「今はまだいい」
「縁起でもない」
「ちゃんと決められないなら、話さない方がいい」

そんな無意識のブレーキを、強く踏んでいるのかもしれません。

「5.5%」という数字が教えてくれること

さらに、はっとさせられる数字があります。

「もしもの時のことを、誰かと話したことがありますか?」
という問いに対し、「実際に話したことがある」と答えた人は、わずか5.5%(令和4年度 厚生労働省調査)。

100人いて、5人ほど。

考えたことはある。
でも、口に出したことはない。

この「5.5%」という数字は、人生会議(ACP)が、どこか遠い世界の話のように感じられてしまう理由を、とても正直に表しているように思います。

でも私は、この数字を「関心がない人が多い」とは受け取りません。

むしろ、こう感じています。

残りの95%の人も、
大切だとは思っている。
ただ、どう切り出していいか分からないだけ。

沈黙の多さが、この数字になって表れているのだと思うのです。

考えるだけでは、人は選べない

私はこれまでの人生で、病気や治療、そして震災など、自分ではコントロールできない出来事に、何度も向き合ってきました。その中で強く感じるようになったことがあります。

人は頭の中で考えているだけでは、いざという時になかなか選べない。

なぜなら、選択の根っこにあるのは正解や理屈ではなく「感情」や「価値観」だからです。

誰の顔が浮かぶのか。
どんな時間を心地よいと感じてきたのか。
自分はどんな人生を生きてきたと思っているのか。

こうしたことは一人で考えているだけでは、なかなか言葉になりません。

誰かとぽつりぽつりと話す中で、「ああ、私はこれを大切にしてきたんだな」と、初めて輪郭を持つことが多いのです。

人生会議(ACP)とは、答えを決めるための会議ではなく、自分の価値観に光を当てるための対話なのだと、私は感じています。

「ねばならない」を手放した先に、選択が戻ってくる

私たちはいつの間にか、たくさんの「ねばならない」を抱えて生きています。

迷惑をかけてはいけない。
ちゃんとしなければならない。
我慢するのが大人だ。

人生会議(ACP)を考えるとき、その「ねばならない」が、無意識のうちにブレーキになることがあります。

本当は、「こうしたい」という気持ちがあるのに「そんなことを言ってはいけない」と、自分で自分を止めてしまう。

では、
最後まで自分の人生を生きるということは、
立派な答えを出すことなのでしょうか。

私は、そうは思いません。

人生会議とは、何かをきちんと決める場でも、誰かに誇れる答えを用意する場でもなく、

「私は、こう感じている」
その事実を、自分自身が受け取るための時間。

「ねばならない」を一度脇に置き、自分の本音を取り戻していく。人生会議とはそんな静かな時間なのだと、私は思っています。

幸せの方を向いて生きるという選択

私は、人生会議を「幸せの方を向いて生きるための時間」だと捉えています。

人生には思い通りにならない出来事が起こります。それは誰にとっても同じです。

でも、その中で何を見るか。
どこに意識を向けるか。

その「向き」だけは、自分で選び続けることができます。

最後まで自分の人生を生きるということは、特別な生き方をすることではありません。

いまの時間を、誰と、どんな気持ちで過ごしたいのか。
その問いを自分に返し続けること。

人生会議(ACP)は、そのための時間なのだと思います。

音楽が、言葉にならない想いを運んでくれる

私の講演では、話だけでなくオカリナの演奏も大切にしています。

言葉にしようとするとどうしても難しくなってしまうこと。うまく言えなくて飲み込んでしまう想い。

そんな時、オカリナのやわらかな音色が、心の中にある緊張をほどいてくれることがあります。

考えるだけで終わらない。
でも、無理に答えを出さなくていい。

そんな時間を、音楽とともに共有できたらと思っています。

講演のご案内

南区在宅医療・介護の区民公開講座
「幸せの方を向いて生きる
〜私のACP 生きる力と選択のチカラ〜」

日時:令和8年2月1日(日)
13:30〜15:30(受付13:00〜)

会場:白根学習館 1F ラスペックホール
(新潟市南区田中383)

講師:さくらい りょうこ
(講演家・オカリナ奏者)

定員:先着300名
参加費:無料(事前申込制)
実はお申し込みの締め切りが本日(1月30日)までとなっているそうです。もし、この文章を読んで『行ってみようかな』と心が動いた方がいらしたら、ぜひ滑り込みで事務局へご連絡くださいね。会場でお会いできるのを楽しみにしています。

オカリナの演奏を交えながら「考える」だけで終わらない、心が静かに動く時間をお届けします。

当日の様子や会場で生まれた空気については、開催後、あらためて別ブログで綴る予定です。

さくらいりょうこ